トアルコトラジャというアラビカ種コーヒーブランドをご存知でしょうか。インドネシアのスラウェシ島で作られている、高級コーヒーブランドです。一度は「セレベスの名品」と呼ばれ、ヨーロッパの王侯貴族に愛されたトラジャコーヒーでしたが、大戦をきっかけに幻となってしまいます。
しかし日本人の情熱により、華々しく再生を飾りました。ちなみに「トアルコ(TOARCO)」とは、「トラジャ(TOraja)」「アラビカ(ARabica)」「コーヒー(COffee)」の頭文字をふたつずつ取ったもの。
トアルコトラジャに込められた情熱や歴史、美味しい飲み方など、トアルコトラジャの秘密に迫ります。
トアルコトラジャとは
トアルコトラジャはインドネシアのスラウェシ島で作られています。インドネシアは13466という世界最多島数を誇る赤道直下の国家。その中でも4番目に大きいのがスラウェシ島です。標高1,000~1,800メートルの高地で、いわゆる「コーヒーベルト」に位置します。
弱酸性の土壌や、昼夜の大きな寒暖差などによって、実が固く引き締まり、複雑な味わいのトアルコトラジャができるのです。
コーヒーベルトとは
赤道を中心に、北緯25度~南緯25度あたりの地域を「コーヒーベルト」と呼ぶことがありますが、これはコーヒーがたいへん寒さに弱い植物だからです。同時に一定以上の降水量も必要なので、乾燥気候帯ではうまく育ちません。
インドネシアのスラウェシ島は、コーヒー栽培の条件を見事にクリアしています。まさに神の恵みですね。
トアルコトラジャができるまで
トアルコトラジャはロブスタ種にくらべ病気や虫に弱いアラビカ種ですが、一粒一粒、大切に育てられています。スラウェシ島から世界へ届くまでの過程を見てみましょう。
栽培
トアルコトラジャの種をまいて、1~2か月ほどで芽が出ます。これが成木(大人の木)になるまでには3年かかります。真っ白なコーヒーの花が咲き始めるのは毎年10月ころ。農園中がジャスミンのような香りに包まれ、緑色の実がつきます。
8カ月かけて赤く色づき、「コーヒーチェリー」と呼ばれる状態になります。
収穫
7月ころになると、トアルコトラジャの実は赤く色づきはじめ、一年で最も忙しい収穫期が訪れます。機械を使わず、真っ赤に完熟したコーヒーチェリーだけを人の手で収穫していきます。収穫されたコーヒーチェリーは、アクアパルパーという機械にかけ、果肉を取りながらパーチメント(種)を洗浄していきます。
種は粘液質に包まれており、発酵して欠点豆の原因になってしまいます。これもきれいに洗い流します。
ハンドピック
水分率10%になるまでじっくり乾燥されたパーチメントは、脱穀機で生豆(グリーンビーンズ)になります。選別機で不良豆を取り除いた後、大きさや形、重さなどでグレード(等級)分けされます。さらにハンドピックで徹底的に欠点豆を取り除きます。
熟練の技がトアルコトラジャの味を守っているんですね。
カップテスト
カップテストとは、コーヒーの品質を確かめる検査のこと。コーヒー豆を口に含んで、香りや味を厳しくチェックします。トアルコトラジャの場合、カップテスターと呼ばれる「コーヒーのソムリエ」が最低4回のカップテストを実施、輸出規格に合致しているかどうか判定します。
農園から港、そして日本へ
カップテストで合格した生豆は、グレード別に麻袋に詰められて港へ。温度管理が徹底された特別なリーファー(コンテナ)で15℃程度に保たれたまま、日本へ輸出されますが、その後も何度もカップテストが待っています。
通関後の港の倉庫で、工場前の保管倉庫で、そして工場で販売加工が行われる前に。
焙煎から出荷
トアルコトラジャが持つ美味しさを最大限に引き出すために、焙煎の間はプロがつきっきりになります。トアルコトラジャのために開発された焙煎方法を用い、生豆の個性によって細かく調整。
赤道直下のスラウェシ島から私たちの手元に届くまで、つねに徹底した品質管理がトアルコトラジャの美味しさの秘密なんですね。
トアルコトラジャを守るために
荒れ果てた農園を再生し、産地に至る道を整備し、幻の名品を現代に復活させたキーコーヒーでは、もう二度と幻に消えぬよう、トアルコトラジャを守っていく強固な仕組みを築いています。そのためには、現地の人々と自然が共生していける形が重要です。
トアルコトラジャの環境を守る仕組み
トアルコトラジャを守るには、トアルコトラジャの環境を守る必要があります。コーヒーの木の周りにカバークロップやシェードツリーを植え、脱肉したコーヒーチェリー果肉をたい肥に利用する循環農法を実現。
トアルコトラジャが再生して以来40年間、この方法をずっと守っています。
トアルコトラジャ生産者を守る仕組み
キーコーヒーは、直営農園だけでなく、周辺農家からもトアルコトラジャを買い付けており、毎回その場で品質チェックを行っています。そのため悪質なものが混じることがなく、品質が安定します。
直営農場の苗木や脱肉機を無償提供するなど、周辺農家も同時に豊かになるようなフェアトレードを行っています。
トアルコトラジャの美味しさを広める仕組み
スラウェシ島のマカッサル港は、トアルコトラジャが世界へ旅立っていく玄関です。2014年には、ここマカッサルの町にトアルコトラジャアンテナショップがオープン。インドネシアのコーヒーにはお砂糖がたっぷり入るのが普通ですが、ここではハンドドリップでていねいに一杯ずつコーヒーをいれています。
トアルコトラジャの歴史
戦後の混乱で、幻の名品となってしまったトラジャコーヒーを復活させるため、1973年にトラジャコーヒーの故郷を目指したのは、日本の「木村コーヒー店(現キーコーヒー株式会社)」でした。
スラウェシ島中部の山岳地帯へジープで向かいますが、途中からは馬、最後は徒歩という強行突破。ようやくたどり着いたトラジャ農園はすっかり荒れ果てていましたが、トラジャはまだ生きていました。
トアルコトラジャの復活
1974年から再生プロジェクトがはじまり、1977年末、トラジャコーヒー復活第一弾が日本へ向けて出発しました。「幻のコーヒー復活プロジェクト」と呼ばれ、世界中の注目を集めたトラジャコーヒーは、とうとう「トアルコトラジャ」として日本で発売されることになります。
発売後は予想をはるかに上回る評判で、類似品やまがい物まで登場したそうです。
トアルコトラジャ・ファーストクロップ
キーコーヒーがトアルコトラジャに着手してから20年、プロジェクトは成長し、大量供給が可能なまでになっていました。このころからトアルコトラジャのブランド戦略が始まります。「トアルコトラジャ・ファーストクロップ」が生まれたのも1991年。シーズンの最初に収穫したコーヒー豆だけを製品化したもので、毎年完売する人気商品となっています。
トアルコトラジャの広がり
トアルコトラジャ事業が始まったころから、地域と連携して綿密に講習会を行ってきた成果が実り、農園も順調に広がっていきました。95年にはインドネシア国内での焙煎も始まり、スラウェシ島内限定販売ができるようになります。
2014年にはマカッサルにアンテナショップがオープン。これからもトアルコトラジャの美味しさは受け継がれていくことでしょう。
トアルコトラジャの美味しいいれ方
トアルコトラジャは、比較的大粒な豆で、豊かなコクと芳醇な香り、高山地が生む上質な酸味、上品でやわらかな甘味が特徴。格調高く贅沢な味わいが、愛される秘密です。ぜひゆったりと味わいたいですね。トアルコトラジャを美味しく飲むための抽出方法をご紹介します。
ペーパードリップ
現在主流となっている王道のいれ方ですね。ドリップ前に少量のお湯で粉を蒸らすことで香りを閉じ込めるのが重要。ポットから細いお湯を注いだり、3分以内に注ぎきるなど、ちょっとしたコツをおさえると、いつもより美味しいトアルコトラジャを楽しむことができます。
氷温熟成(キーコーヒー登録商標)
0℃以下でも凍らない特殊な環境で一定期間保管すると、常温ではありえないような熟成が起こることがあります。これを利用したのが氷温熟成です。コーヒー生豆に氷温熟成を行うと、細胞や水分が均一になり、焙煎の熱が均一に通りやすくなるんだとか。
透明感のあるまろやかな味わいがうまれます。
アロマフラッシュ
こちらもキーコーヒーが生み出した独自製法で、いれる瞬間までコーヒー豆の香りを閉じ込めたままの状態をキープできる、特殊な容器を開発したものです。コーヒーの香りにトコトンこだわったキーコーヒーならではの情熱を感じますね。
トアルコトラジャのアレンジ
ぜひストレートブラックで飲んでいただきたいトアルコトラジャですが、しっかりと苦味のあるコーヒーなので、ミルクと合わせても美味しく、フルーティな甘味はキャラメルやハチミツとも相性バッチリ。
産地のトラジャ族に思いをはせながら、トアルコトラジャの奥深い世界を堪能してください。
幻の名品トアルコトラジャ
トアルコトラジャの生産方法は確立しましたが、それでもやはり、ごく限られた地域でだけしか作ることができない、幻のコーヒーであるのも事実。いつも飲むコーヒーにもたくさんの人の想いがつまっていると思うと、いつもと違った味わいがします。