コーヒーの味や香りを決める焙煎。浅煎り・深煎りなどと焙煎度が変わると、同じ豆でも味が変わります。うま味や甘味を引き出すのは焙煎の腕次第ともいえますね。ここでいう焙煎とは、コーヒーの生豆を炒って加熱する工程を指します。
焙煎前のコーヒー豆は緑がかった灰色をしており、一般的な茶色のコーヒー豆とはだいぶ異なった様子です。生豆を焙煎すると、コーヒー豆に含まれる成分が化学変化を起こし、香りや苦味、甘味、うま味、酸味など、コーヒーらしさを引き出すことができます。
焙煎にはライト~イタリアンの8段階があり、焙煎方法も大きく分けて3種類あります。焙煎には専門の機械を使うのが一般的ですが、家庭でもチャレンジできますよ。コーヒーを磨き上げる焙煎の奥深さをのぞいてみましょう!
焙煎とは?
焙煎とは、コーヒーの生豆を加熱する作業のことです。焙煎は8段階の目安があり、それぞれ風味が異なるのはもちろん、豆の収穫年度によっても味が異なるといいます。
その年に最初に収穫されたコーヒー豆を「ファーストクロップ」と言いますが、ブランド豆のファーストクロップは毎年超人気で、予約完売してしまうほど。一般に、古い豆の方が品質が均一で、焙煎も安定します。
生豆って?
収穫されたコーヒーの実から果肉や固い皮を取り除くと、コーヒーの種が出てきます。これを乾燥させたものがコーヒーの生豆(きまめ・なままめ)です。生豆は緑がかっていることから「グリーンコーヒー」と呼ばれることも。
かつては、この状態のまま、お茶のようにコーヒーを煮出していた時代もあったようですが、13世紀ころには焙煎が定着しました。焙煎前の生豆はコーヒーのような香りや味はなく、大豆のような風味があります。
焙煎で起こる化学変化
クロロゲン酸は代表的な渋味の成分ですが、生豆の状態で最も多く、焙煎すると分解されて酸味のもとが生成します。ミディアムローストのときに最も酸味が強くなりますが、一方でだんだん苦みも強くなっていきます。
これは、熱により生豆のタンパク質が分解され、苦味のもととなるジケトピペラジンが生成するため。また、豆に含まれる糖分が色が茶色く変化し、香りや甘味が生まれ、カフェインは深煎りにするほど揮発して失われていきます。
8段階の焙煎度
焙煎度によってコーヒーの味は変わります。豆の種類や鮮度によって焙煎度を変えたり、その日の湿度や気温によって、温度や気温の調整が必要です。焙煎士という専門の職業もあるとおり、焙煎はコーヒーにおいて重要な工程。最近では自家焙煎のお店も増えましたね。
焙煎の8段階とはどんなものか、適した豆の種類などを紹介します。
焙煎①ライトロースト
緑色をしていた生豆が、小麦色になった状態です。香り・コクはほとんどなく、渋味が強いです。生豆の試験や検査に使われる焙煎度。一般に飲まれることはありません。
焙煎②シナモンロースト
文字通りシナモンのような色になるまで焙煎した状態です。まだ青臭い香りが残りますが、酸味が出てきてコーヒーらしさが出てきます。苦みはほとんどなく、サードウェーブの到来で脚光を浴びている焙煎度でもあります。フルーティな香りや酸味を活かしたい、中米産の豆にオススメです。
焙煎③ミディアムロースト
酸味が最も強くなる焙煎度ですが、苦味も出てきます。豆はアーモンドのような茶色で、いわゆるアメリカンコーヒーの浅煎りにあたるのがミディアムローストです。
シナモンやライトローストにある渋味がほとんどなくなるので、味がわかりやすく、カッピングテストに用いられることも多いのだとか。キリマンジャロやモカ、ハワイコナなど、ストレートブラックで飲みたいブランド豆にオススメの焙煎度。
焙煎④ハイロースト
ミディアムよりもやや強めの焙煎度で、茶色が濃くなります。日本で流通しているレギュラーコーヒーは、ハイローストが多いです。バランスがよくてクセがなく、誰にでも好まれる焙煎度。酸味が苦手な方にも、苦味が苦手な方にも飲みやすい味に仕上がります。どんな豆にも合う焙煎です。
焙煎⑤シティロースト
日本に限らず、世界中で定番の焙煎度です。コーヒーブランと呼ばれる豆の色になっており、エスプレッソに用いられることもあります。豆の油分が表面に出てくるので、豆が照りを帯びてきます。このためコクが深まり、どんな豆でも安定したコーヒーらしさを味わうことができます。
酸味がまろやかになり、キリっとしたキレと苦味を感じられます。
焙煎⑥フルシティロースト
豆の照りが強くなり、豆の色も茶色から黒みを帯びてきます。アイスコーヒーは氷で薄まってしまうことから、フルシティロースト以上の焙煎度を用います。いわゆる「炭火」「炭焼」といった焙煎はフルシティローストのことが多いです。
酸味よりも苦味の方が強くなり、そのため甘い香りが強調されるような焙煎になっています。インドネシア産のコーヒー豆など、苦味がしっかりした豆にオススメです。
焙煎⑦フレンチロースト
豆の色は大分黒っぽくなってきます。焙煎が進んだことで、カラメルのような甘く焦げた香りがします。苦味が強くなるので、カフェオレなどミルクをたっぷり入れるアレンジに向いているほか、モカやコンパナなどアレンジコーヒーにもよく用いられます。
ブラジル産などバランスのよい豆にオススメ。濃厚なエスプレッソにたっぷりお砂糖を入れて飲むのもいいですね。
焙煎⑧イタリアンロースト
豆の色はほとんど黒くなり、スモーキー香が加わります。表面に油分が浮いてコッテリとした強いコクを楽しめるので、ミルクを加えるアレンジや、アイスコーヒーにもピッタリ。生豆の個性はほとんどなくなる一方、どんな豆でも安定して「イタリアンロースト」の味になります。
自家焙煎にチャレンジしよう!
焙煎度がわかったところで、さっそく自家焙煎にチャレンジしてみましょう!フライパンでも焙煎はできますが、かなり時間がかかるので、銀杏(ぎんなん)やゴマを炒るときに用いられる手網を使うのが手軽です。
少々お値段は張りますが、電動で自動的に焙煎をしてくれる家庭用焙煎機もあります。こちらでは、手網を使った焙煎方法をご紹介します。
自家焙煎①ハンドピッキング
生豆を選んだら、焙煎前に手作業で欠点豆を取り除きます。カビが生えている豆や虫食い豆、形の悪い豆などは、コーヒーの味が悪くなったり、焙煎にムラが出てしまうためです。焙煎後、豆を挽く前にもハンドピッキングが必要な場合もあります。
このあと、焙煎前に水洗いするお店もあります。
自家焙煎②加熱する
手網に生豆を入れます。加熱すると豆が弾けて飛び出すことがあるので、フタをクリップなどでしっかり止めます。網を水平に保ち、中火で煎ります。焙煎ムラができないように網をゆすりましょう。3分ほどで水分が抜けて変色が見られます。
薄皮が焼けてチャフと呼ばれる状態になり、燃え尽きます。念のため挽く前にはチャフが残っていないか確認しましょう。家庭のキッチンで焙煎をする場合は、コンロがチャフまみれになりますので、火まわりにもご注意ください。
自家焙煎③ハゼ
さらに10分ほど炒ると「1ハゼ」が起こります。豆がパチパチとはじける音が聞こえなくなったころが「中煎り(シティロースト)」です。ここから5分ほどで「2ハゼ」が始まり「チリチリ」と音がします。これが「中深煎り(フルシティロースト)」となります。
家焙煎④豆を冷ます
好みの焙煎度になったら、急いで豆を冷ましましょう。余熱でも焙煎が進んでしまうので、ドライヤーの冷風などで冷まします。焙煎したてのコーヒー豆は化学変化が終わったばかりで、ガスを含んで膨らんでいます。味がなじんで落ち着くまで、数日間寝かせるのがオススメ。
翌日飲むのがいい、という人もいれば、5日待つべきだ、という人がいたり、この辺りは好みでしょうか。もちろん、焙煎直後の豆を挽いてコーヒーを入れる方もいます。豆の状態では1カ月、挽いたものは2週間以内に飲み切るのがオススメ。
焙煎の種類
上で紹介したのは、ガスコンロの直火で豆を焙煎するため「直火式」と呼ばれます。一方、熱源から発生した熱風を用いる方法を「熱風式」といい、両方の熱源を活かすタイプが「半熱風式」。熱風式がもっとも焙煎状態をコントロールしやすく、大手メーカーなどで用いられます。
炭火焼コーヒーもよく聞きますね。炭火を用いると、遠赤外線効果で焙煎がにムラがなく仕上がるといいます。
ダブル焙煎
コーヒーの中には、ダブル焙煎といって一度焙煎を終えて冷ました豆を、再度焙煎にかけることがあります。ファーストクロップやニュークロップといった、新しくて新鮮な豆ほど水分を多く含んでいるので、オールドクロップとブレンドするときには、新しい方の豆だけダブル焙煎する、といった具合です。
トレファクト
焙煎は普通、コーヒー豆だけを過熱しますが、一緒に砂糖や調味料を過熱することをトレファクトといいます。砂糖を加えることで、コクや甘味、香りといった風味をプラスするのが目的です。
当然、ブルーマウンテンやゲイシャのような高級豆には使いません。砂糖以外には、小麦やマーガリン、バターなどを加えることがあります。
コーヒーの味は焙煎次第!
家庭でドリップコーヒーを入れるときは、焙煎後何日も経過して、さらに挽いてあるコーヒー豆を使ったりすることがよくあります。やはり焙煎したて、挽きたてのコーヒーの香りは格別。自己流のブレンドを作ることもできます。
手軽に試すなら、自家焙煎の喫茶店やカフェを探すのもいいですね。あなたにとって一番おいしいコーヒーを見つけてください。